祖母・ひさについて

祖母はおそらく僕にとって最初に出会った作家であった。彼女は40代の後半、当時まだ手書きだった街の看板屋に勤め、映画館や店舗の看板の製作に携わった。短い期間ではあったが、その事が後の創作のきっかけとなった。僕が物心ついた頃には、自宅で自由奔放に絵や陶芸や刺繍画、写真等の創作、寄り合でのパフォーマンスや手品と、好奇心の赴くままに表現活動の幅を広げていた。僕が見る限りおよそ30年の間、技術的な向上は見当たらず、また作品の質も「もらってもちょっと困る」感じのまま平行線を辿っていたが、周囲の反応をよそに、本人の根幹には、作る行為そのものの喜びと、人を楽しませたいという欲求が途切れる事なく持続していた。同時に日常を超越する力を棚ぼた的に得たいという欲求が彼女の行動の端々にみられた。縁起物が作品のモチーフの大半を占めていたのもその表れだったように思う。しかし、本人の想いとは裏腹に作品にそうした呪力が定着した例を目にした事はなかった。 » read more

気配についての雑感

気配についての雑感

神奈川県民ホールギャラリー『5rooms 気配の純度』に寄稿 気配と聞いて思い出すのは、初めて猟に同行し、一頭分の骨と肉を譲り受けた際の事だ。肉や筋を切り分け、油抜きした骨をアトリエの片隅にまとめて置いた。アトリエに入る度にその一帯に異様な気配を感じた。何度扉を開けてもやはりその周縁には他とは異なる生々しい空気が充満しているように感じられた。しばらく手を付けなかった為、この状況は二ヶ月ほど続いた。 » read more